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英国ロイヤルバレエ『CONCERTO / LAS HERMANAS / REQUIEM』 2012年11月17日

ロイヤル・オペラ・ハウスにて、ケネス・マクミラン(Kenneth MacMillan)(1929-1992)振付の作品を集めたトリプルビルを観た。

CONCERTO(コンチェルト) : 初演1966年
LAS HERMANAS(ラス・エルマナス) : 初演1963年
REQUIEM(レクイエム) : 初演1975年

マクミランの振付家としてのキャリアは1953年~1992年なので、キャリアの中盤やや手前寄りの作品ということになる。この時期に振付したその他の作品には例えば「春の祭典(1962)」、「ロミオとジュリエット(1965)」、「マノン(1974)」がある。
現在のロイヤルバレエでも上演され続けている作品たちは、マクミランの振付の才能を余すところなく伝えてくれる。物語バレエでは登場人物の心理描写をダンスで雄弁に語らせ、抽象的なバレエではダンサーのエネルギーを全て放出させるような力強さを感じさせてくれる。
しかし、彼の作品リストを見ると、小品も含めて膨大な量の作品があり、実はレパートリーに定着していないものもずいぶんとあるようなのである。また、先シーズン見た「パゴタの王子」のように精彩を欠くものもたまにはあるようだ。
生みに生んだ作品群は、マクミランの試行錯誤の結果であり、作品を作り続けるタフな人であったらしいことが分かる。


『CONCERTO(コンチェルト)』

黄色、オレンジ、赤といったビタミンカラーのレオタードを着たダンサーたちが踊るアブストラクトなバレエ。光のプリズムが飛び交うような陽気な振付である。この作品にはストーリーや特別な場面設定は無く、ダンサーの身体の動きを純粋に楽しめる作品だった。

「どうして全くのピュアなダンスを作るのか?」と不思議になる。
全くのピュアなダンスを創作する動機とは何だろう?
例えば、このトリプルビルの2作目の物語バレエは物語に感動したからだろうし、3作目のレクイエムは友人の死を悼むものだろう。では物語も場面設定も無いならば??
こんなムーブメント、あんなムーブメント、とりあえず作って踊ってみて、使えそうなら、のちのちの作品に生かす。そのための部品作りであったり、プロトタイプのテストであったりするのではないだろうか?
そう思ってみると、ダンサーたちの隊列の組み方や舞台袖からの出方・入り方,リフトの仕方などには、奇抜な要素が多く、その効果を試しているようにも見える。

なお、またもユフィさんが素敵だった。


『LAS HERMANAS(ラス・エルマナス)』

有名(※私は知らないけど)な演劇”The House of Bernarda Alba”をバレエに翻案した作品。

父の喪に服する五人姉妹。ある日、長姉のところに縁談話が起こり、婚約者がやってくることになる。厳格な母に押さえつけられている五人姉妹の家へ、若い男性がやってきたことで起こる悲劇を描いた作品。
平凡で大人しい長姉、嫉妬深い妹(演劇ではせむしの妹)、美人で奔放な末の妹の心理劇になっている。

THE ELDEST SISTER(長姉): Zenaida Yanowsky(ゼナイダ・ヤノウスキー)
THE YOUNGEST SISTER(末の妹): Melissa Hamilton(メリッサ・ハミルトン)
THE JEALOUS SISTER(嫉妬深い妹): Laura Morera(ラウラ・モレラ)
※ちなみに他2人の妹は背景のようなもので、メインはこの3人の姉妹と母。

たまに演劇をバレエに翻案した小品が上演されるのだけど、結局どれもバレエが演劇ほど面白くはなさそうなのである(アシュトンの"A Month in the Country"とか)。
この”ラス・エルマナス”も人気無かったのか、これまでの上演回数がめちゃめちゃ少ない。

バレエにはセリフが無いので、あまり複雑な設定はなじまない。
この作品では、場面を全て家の中とせいぜい庭にしぼって、起こる出来事や時間経過も最小限にして、演劇よりもストーリーを単純化しているらしい努力の跡が感じられる。ただ、なまじ演劇っぽい舞台装置や衣裳が邪魔をして、ただのセリフが足りない演劇っぽく見えてしまう。
もっと舞台装置や衣裳を抽象化して、芝居っぽいマイムの動きは一切排除して、三人の姉妹の個性的なダンスにフォーカスしたらいいのに・・・。

ちなみに、役というのはダンサーを選ぶなぁ、と改めて思ってしまった。
背が高いヤノウスキーは長姉、めっちゃ美人のハミルトンは末の妹、若干トウの立ったモレラは嫉妬深い妹に、といったイメージで配役してないか?分かりやすいからいいのだけど。


『REQUIEM(レクイエム)』

シュツットガルト・バレエ団の芸術監督だったジョン・クランコが亡くなったときに、友人であったマクミランが哀悼の意を込めて製作したバレエだそうだ。音楽はフォーレ。

この作品には、愛する者を亡くした人間(アコスタ)、天国へと旅立つ魂(ヌニェス)、人間を導く天使たちの姿(ベンジャミン,およびその他)が描かれているのではないだろうか、と私は考えた。

苦しみ、救いを求める人間を、見守り続ける天使たちは、例えば、日本の昔の絵巻物に描かれている雲のような存在だ。とぎれとぎれの場面を緩やかにつなげ、幻想的な世界を生み出している。
または、例えば、漫画「火の鳥」における猿田彦のようなものかもしれない。姿を変えて常に存在する猿田彦のように、天使たちは時空を超越した壮大な存在感を感じさせる。

見終わると少し涙ぐんでしまった。心に直接響く素晴らしい作品だった。



こんな風に、振付家をマクミランに絞ったトリプルビルというのは、彼の様々な側面を知ることができてとても興味深い。なお、ケネス・マクミランについては、マクミラン財団が運営する公式サイト(http://www.kennethmacmillan.com/)が非常に詳しい。
by tsutsumi_t | 2012-11-22 09:48 | ダンス


バレエ、ダンス全般、建築についてのブログ。


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プロフィール

Tsutsumi

Mechanical engineer / Architect

建築学科を卒業、日本の建築設計事務所で働いた後、2011年に渡英。
バレエやダンス全般の観劇についてここに記しています。

(追記)2013年4月に日本に帰国しました。

(追記)2016年12月に出産しました。観劇はなかなか難しく、ブログの内容が子育てにシフトしてきています。

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