『Beyond Ballets Russes』 English National Ballet 2012年3月24日

イングリッシュ・ナショナル・バレエによるバレエ・リュスへのオマージュまたは挑戦とも思える公演『Beyond Ballets Russes』のProgramme1を観た。

Firebird(火の鳥) 振付:George Williamson
L'Apres-midi d'un faune(牧神の午後) 振付:Vaslav Nijinsky(ワスラフ・ニジンスキー)
Faun(e) 振付:David Dawson
The Rite of Spring(春の祭典) 振付:Kenneth MacMillan 衣裳:Kinder Aggugini

バレエ・リュスは100年前の伝説のバレエ興行師兼プロデューサー、セルゲイ・ディアギレフにより立ちあげられた当時のバレエ団の名前であるが、それと同時に今振り返れば、この時代にバレエに起きたムーブメントと言える。
イタリア及びフランスで生まれたバレエが、起源といえる国々では、今より百年前ほどの時代には退廃化していってしまったのに対し、ロシアでは脈々とバレエが芸術として発展し新たに上質なバレエを産み続けていた。そして今度は逆に、ディアギレフと自由な体制を求めてロシアを飛び出したダンサーたちが、ヨーロッパにバレエ・リュスとして、ロシアのバレエを逆輸入していったのである。
バレエ・リュスはフランスやイギリスにおいて、相当な衝撃であったらしい。
退廃していたバレエ界が触発・奮起され、今の隆盛がある。

今回の公演タイトル、”Beyond(超える)”を頭にくっつけたあたり、かなり挑戦的な試みである。(すごく惹かれる。これはいいタイトルだ。)そして演目も、過去のバレエ・リュスのレパートリーをリステージングするのみではない。

『Firebird(火の鳥)』は過去にミハイル・フォーキンが振付しているが、今回は若い振付家が新たな解釈で全く新しい振付をしている。
『L'Apres-midi d'un faune(牧神の午後)』は、ニジンスキーによる過去の振付の復刻版と、新解釈による現代の『Faun(e)』を休憩を挟まずに連続して上演し、観客に比較させる趣向。
『The Rite of Spring(春の祭典)』はストラヴィンスキーがバレエ・リュスのために作った音楽だが、これには多くの振付家がインスパイアされて独自の振付を作っている。今回はケネス・マクミランによる振付の上演だが、既存のマクミラン版と異なる点は、新進気鋭のファッション・デザイナー、Kinder Agguginiが衣裳をモダンにデザインし直していることだ。

観客を期待させる幾つもの仕掛けが仕組まれている。さすが”Beyond”。

オープニングの『Firebird(火の鳥)』は暗闇に火の鳥の羽根がうごめくところから始まり、印象的だった。これから何が始まるんだろうと、ぐいと引きこまれた。火の鳥が人間の慾にさらされ、人間に羽根をむしりとられていき息絶えるが、純粋な乙女に導かれて再生するストーリー。火の鳥のかぼそく弱弱しく神秘的な雰囲気が美しい。しかし、伸びたつま先には生命力の強さを見せる。

ニジンスキー版の『L'Apres-midi d'un faune(牧神の午後)』は、どういう作品なのか文字や写真では知っていたものの、ダンスそのものは見たことがなかった。センセーショナルな内容や革新的といわれる批評を既に知っていたので、かなり期待していた。
そして、噂通り、革新的であった。
正直、これがダンスなのか何なのか分からない。
神話の場面を絵画に切り取ってつなぎ合わせていくような振付。徹底的に滑らかさを排除し、いびつに曲げられた腕、ぎこちなく動くダンサーたち。そして、ニンフたちに恐れられ、彼女たちに拒否される牧神の悲哀。異常すぎるシュールさ。
こうした手法が後世には伝わっていない。現代、こういう振付を脈々と伝えている振付家はいない。ニジンスキーが突然変異とも思えるし、バレエ界のガウディとも言えそうな、異端さ。
あまりに謎で、未だにとまどいが消えない。

そして、それに引き続き上演された『Faun(e)』。舞台上には舞台装置は何も置かず、舞台裏まで見せていた。ピアノが2台、ピアニストも2人。男性ダンサーが2人。各ピアノはそれぞれのダンサーに同期していると考えていいだろう。同性愛をモチーフにしていると思われる美しいダンスだった。けれども、全く元ネタであるところのニジンスキー版を”Beyond”してはいなかった。あぁ、よくあるダンスだなぁと思ってしまう。ニジンスキー版が異色すぎるのだ。

『The Rite of Spring』は衣裳を黒くし、モダンな形状に変えている。マクミラン夫人のイチオシのデザイナーということだ。インタビューで「バットマンっぽい」とデザイナー自身言及していたけれど、そのまま確かにバットマンぽかった。振付自体は古代の生贄を思わせるが、衣裳がモダンで無機質なイメージのものになったお陰で舞台設定も現代になったかのようだった。衣裳は手が混んでいるようだったが、遠目には黒としか分からず、地味だった。好意的なガーディアン紙の批評でも、衣裳については昔のがよかったかも・・・と言われている。


"Beyond"していてもいなくても、これは挑戦的で面白い試みである。イングリッシュ・ナショナル・バレエの芸術監督が解任されるとのうわさがあるが、こんな企画が実現できる人が去ってしまうのは残念。
[PR]
by tsutsumi_t | 2012-03-28 08:43 | ダンス


バレエ、ダンス全般、建築についてのブログ。


by Tsutsumi

プロフィールを見る
更新通知を受け取る

カテゴリ

全体
ダンス
ダンス(日本)
演劇
オペラ
ミュージカル
歌舞伎
ストリート
読書
子育て
わたしのこと
未分類

最新の記事

山上憶良をすこしよむ
at 2017-07-26 21:56
百人一首が頭を行き交う
at 2017-07-12 20:59
0か月~2か月の頃はなんだか..
at 2017-07-04 00:01
ショパン
at 2017-04-17 20:50
お裁縫にハマる
at 2016-12-14 16:21

以前の記事

2017年 07月
2017年 04月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 07月
2016年 04月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 02月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 07月
2014年 02月
2013年 12月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月

最新のトラックバック

プロフィール

Tsutsumi

Mechanical engineer / Architect

建築学科を卒業、日本の建築設計事務所で働いた後、2011年に渡英。
バレエやダンス全般の観劇についてここに記しています。

(追記)2013年4月に日本に帰国しました。

(追記)2016年12月に出産しました。観劇はなかなか難しく、ブログの内容が子育てにシフトしてきています。

検索

タグ

その他のジャンル

記事ランキング

ブログジャンル

子育て
日々の出来事

ブログパーツ