英国ロイヤルバレエ『The Prince of the Pagodas』 2012年6月18日

ロイヤルオペラハウスにて、『The Prince of the Pagodas(パゴダの王子)』を観る。
イギリスが誇る偉大な振付家ケネス・マクミランの最後の全幕バレエ。マクミランは、1957年にジョン・クランコが製作した台本と音楽を用い、1989年にダーシー・バッセルのために改訂版を振り付けたそうだ。


PRINCESS ROSE(ローズ姫) : Marianela Nunez(マリアネラ・ヌニェス)
PRINCESS EPINE(エピーネ姫) : Tamara Rojo(タマラ・ロホ)
THE PRINCE(王子) : Nehemiah Kish(ネマイア・キッシュ)
THE FOOL(道化) : Alexander Campbell(アレクサンダー・キャンベル)


でも正直、第一幕が終わった休憩時間で既に「ひどい」と思ってしまった。

ストーリーは、「良い姫が悪い姫に苦しめられるが、良い姫が苦難を乗り越えて、最後に勝つ」という単純なおとぎ話。ストーリーが単純なので、人物造形も単純である。

舞台装置は、城を簡単な形にして置いてあり、国の情勢が傾くと、その城も傾いたりする。ローズ姫が世界をさまよえば、怪物を描いた旗を持ったダンサーたちがローズ姫を囲んでぐるぐる回ったりする。ただ、舞台装置がこれだけシンボル化されているのに、登場人物たちの衣裳はかなり正確に精巧にクラシカルに作り込まれていて、舞台装置の単純さに対してチグハグだった。

音楽はベンジャミン・ブリテン。シタールのような東洋の楽器を取り入れているらしく、オリエンタルな雰囲気がちょいちょい入る。ただ、音楽からは喜怒哀楽が感じ取りにくく、舞台で起こっている出来事に対して、やはりチグハグだった。

そして、ハッピーエンドを迎えた後に、物語の進行には全く関係なく群舞によるダンス三昧となる。
もちろん、『くるみ割り人形』や『眠りの森の美女』など過去のクラシック・バレエでは、物語の進行に関係なく、最終幕でダンス三昧となるのは普通だし見どころだが、しかし、この『パゴダの王子』は1989年のバレエである。なぜこの時代に、この使い古された構成を使ったのだろう?(しかもその群舞があまり面白くない。)


これまでに見てきたマクミランの作品が、どれも素晴らしかったので、なぜ晩年になってこんな散漫としたものができちゃったのか?不思議でならない。彼が手を入れた部分が少ないのだろうか?(例えば、映画監督キューブリックも、遺作”アイズ・ワイド・シャット”は、ひどかったりするし・・・。)
ここ10年以上、再演されていなかったというのもうなずける気がした。


今シーズンは芸術監督モニカ・メイスンのラストシーズンなので、上演作品のチョイスには彼女の意向がかなり強く反映されているという。

”The revival of MacMillan’s The Prince of the Pagodas next summer, with new elisions made with the approval of the Britten Estate to the score, would be her penultimate offering, attempting to restore a problematical but major work to the repertoire.”
(the arts desk, by Ismene Brown, 14 April 2011)
http://www.theartsdesk.com/dance/royal-opera-royal-ballet-2011-12-season

”次の夏にリバイバルされるマクミランの『パゴダの王子』は、ブリテンの遺族の了承を得てスコアを短くしており、(モニカ・メイスンがステージングする)最後から2番目の作品となるだろう。これは、内容に問題はあるけれども主要な作品としてレパートリーへと戻すことを意図している。”

作品が多くの問題点を抱えていることは分かっているが、マクミランの作品を新しい世代へ引き継いでいくために、リバイバルを決意した、ということだろう。


なお、悪い点ばっかり書いてしまったのだけど、サラマンダーの場面はすごく良かった。
サラマンダーの這うような動きは独創的で面白かった。サラマンダーが姿を恥じて(?)逃げ、ローズ姫と道化が追っていく場面で、ダンサーも右往左往し、舞台装置も右往左往するのも良かった。




ちなみにちょっと気になった「道化」。(20世紀も終わる頃に製作しても、「道化」はやっぱり昔と変わらず「道化」の姿で出てくるのかと、ここもがっかりなのだけど。)

道化はエピーネ姫に対抗しうる魔力を持っており、人々を眠らせたり、サラマンダー(トカゲ?)の本当の姿(実は王子)をローズ姫に垣間見せたり、エピーネ姫の手下と戦う王子を助けたりする。
彼は『くるみ割り人形』のドロッセルマイヤーみたいなもので、いわばジョーカー的に何でもアリな力を発揮するのだけど・・・でも容姿は言ってみればマクドナルドのドナルドである。
気になったというのは、一番最初の場面で、ローズ姫は目隠しをして道化と鬼ごっこをするところ。このとき、途中で道化は王子と交代する。

このシーンは、実は道化がローズ姫を愛していることを表してたりしないかな?(考え過ぎかな?)
道化はひたすらローズ姫を助け続けるが、しかし、道化はいつまでも道化の姿で、ローズ姫はひたすら王子を求めていて、道化こそヒーロー的活躍をしているにも関わらず、道化の献身が報われることがないのが哀しい。
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by tsutsumi_t | 2012-06-29 08:17 | ダンス


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Tsutsumi

Mechanical engineer / Architect

建築学科を卒業、日本の建築設計事務所で働いた後、2011年に渡英。
バレエやダンス全般の観劇についてここに記しています。

(追記)2013年4月に日本に帰国しました。

(追記)2016年12月に出産しました。観劇はなかなか難しく、ブログの内容が子育てにシフトしてきています。

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