英国ロイヤルバレエ『METAMORPHOSIS TITIAN 2012』 2012年7月14日 その1: MACHINA

ロイヤルオペラハウスにて、『METAMORPHOSIS TITIAN 2012』を観る。
初日に観てから、ナショナル・ギャラリーでの展示を見たり、トークイベントに行ってみたりして、いろいろ考えていたら、かえってここに書くのが難しくなってしまって、だいぶ時間が経ってしまった。

ナショナル・ギャラリーが所有する3枚の絵、”Diana and Callisto(ディアナとカリスト)”,"Diana and Actaeon(ディアナとアクタイオン)","The Death of Actaeon(アクタイオンの死)"を題材に、ナショナル・ギャラリーとロイヤルバレエがコラボレーションした新作。


”Diana and Callisto(ディアナとカリスト)”
ジュピターの子を妊娠したカリストに、純潔を尊ぶディアナは怒りを露わにする。




"Diana and Actaeon(ディアナとアクタイオン)"
狩りの最中、うっかりディアナの入浴する姿をのぞき見てしまったアクタイオン。




"The Death of Actaeon(アクタイオンの死)"
入浴をのぞき見られたディアナが復讐にアクタイオンを死に追いやる。



この3枚の絵は、ルネサンス期のイタリア人画家Titian(ティシャーン/ティツィアーノ・ヴェチェッリオ)がスペイン国王の依頼で製作したもので、3枚とも古代ローマの詩人Ovid(オーヴィッド)の詩"Metamorphosis(変身物語)"から着想を得ている。
「詩→絵画」へと変身したモチーフを、今度は「絵画→ダンス」へと変身させて表現しようという試みらしい。

そして、3人のアーティストと7人の振付家が協働して3つのバレエ小品を製作した。なお、アーティストは独自にアート作品も制作しており、ナショナル・ギャラリーで展示されている。

今回、3つそれぞれに分けて、日記を更新するつもりなので、まずは一つ目、『MACHINA(マキナ)』。


『MACHINA』

デザイン: Conrad Shawcross(コンラッド・ショークロス)
振付: Kim Brandstrup, Wayne McGregor(ウェイン・マクレガー)

舞台上で、三脚に乗った巨大なロボットアームが光を明滅させながら腕を振り、ダンサーたちがその前で踊る。ロボットアームには”ディアナ”と名付けられており、時に冷静にダンサーたちを監視するように腕を静かに動かし、時に怒りを表すかのように暴力的に腕を振り回したりする。

(※舞台の分かりやすい画像は
http://www.guardian.co.uk/stage/2012/jul/17/collaborations-visual-artists-theatre
で見ることができます。)

このロボットアームには、カルロス・アコスタとエドワード・ワトソンのデュエットにおけるワトソンの動きをモーションキャプチャーしてインプットしてあるそうだ。残念なことに、舞台でみると、ロボットアーム”ディアナ”がダンサーたちの動きにインタラクティブに動いているようにはさすがに見えないのだが。ちなみに、私の席は天井桟敷的な席なので、上から見下ろすように見るため、アームとダンサーが離れて見えてしまう、という難点があった。後日、ムービーで見たら、ダンサーの背景にアームが見えるように写っていて、ロボットアームとダンサーたちの動きにインタラクションがあるように見えた。


後日、ロボットアーム"ディアナ"の製作者、コンラッド・ショークロスのトークイベントを聞きに行った。ショークロスはメカニカルなシステムを用いたアート作品を制作することで知られている若手アーティスト。

面白いと思ったのは、ロボットアームという産業ロボットが舞台を支配した、という話。
本来、舞台は音楽の指揮者が指揮棒を振ることで音楽が始まり、キューのタイミング、動きのタイミングなど全て指揮者が支配している。しかし、今回、ロボットアームには事前に動きをプログラムされていたため、指揮者が勝手に音楽を始めることができない。そのため、ロボットアームの動きに9つのキーポイントを定めておいて、指揮者がその動きをきっかけにして、指揮棒を振ったらしい。
指揮者という人間がロボットに舞台の支配権を奪われ、ロボットに従わざるを得なかったという、危うい状況が生まれたわけである。

また、ショークロスと振付家のBrandstrapやマクレガーらは、ミーティングを重ねるうちに、どうやら、この絵画の下敷きとなっている物語や登場人物にはこだわらないことにしたようだ。

ショークロスと振付家たちは、2枚目の"Diana and Actaeon"と3枚目の"The Death of Actaeon"が、同じ構図を持っていながら、ディアナとアクタイオンの位置が入れ替わっていることに注目したそうだ。
2枚目の"Diana and Actaeon"では左にアクタイオン、右にディアナがおり、ディアナは闖入者に驚いて布を引きかぶって縮こまり、女性の弱い姿を晒している。
しかし、3枚目の"The Death of Actaeon"では、左に大きなディアナ、右に小さなアクタイオンがおり、2人の位置が入れ替わっただけでなく、強く威圧的なディアナ、矢を受け犬にかみ殺されそうな弱いアクタイオン、と立場も入れ替わっている。

この作品では、ダンサーたちには特に役名がついているわけではない。唯一、ロボットアームに”ディアナ”という名が付いている。ショークロスはロボットアームの形状として、三脚部分がフェミニンに見えるよう、こだわったらしい。(ショークロスはトーク中、このロボットアームを常に"she"と呼んでいた。)


産業用ロボットアーム"ディアナ"は、女性らしいフェミニンな姿をしながらも、入浴の姿をのぞき見られたディアナが復讐にアクタイオンを死に追いやってしまうという、その残酷な冷たさも十分に表現していた。一方、ダンサーたちの存在がどういう意味だったのだろうか。翻弄されるアクティオン的な存在をダンサーが踊っていたのだろうか。
ダンサーたちが繰り広げる光景をロボットアームがジーっと執拗に眺め、時に怒るように凶暴に腕をウィンウィンと鳴らしながら振る。ロボットアームが異様な大きさなので、小さなダンサーたちに重ねて見ると、人間には制御できない何か偉大なパワーを持っていた。

ロボットアームの作り出した、舞台を支配しうる異様な雰囲気はとても危うくて魅力的だったけれども、振付とのインタラクションがもっと分かり易ければ良かったなぁ・・・という感じ。この日記を読み返しても分かるけど、ロボットアームの一人勝ちといった感じも・・・。舞台をリードしたのは、ダンサーでも指揮者でもなく、ロボットアームだったのである。
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by tsutsumi_t | 2012-08-04 05:31 | ダンス


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Tsutsumi

Mechanical engineer / Architect

建築学科を卒業、日本の建築設計事務所で働いた後、2011年に渡英。
バレエやダンス全般の観劇についてここに記しています。

(追記)2013年4月に日本に帰国しました。

(追記)2016年12月に出産しました。観劇はなかなか難しく、ブログの内容が子育てにシフトしてきています。

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