フォスターとアコスタはキューバの失われたバレエの殿堂を救うことができるのか?

イギリスの有力紙ガーディアンの日曜版であるオブザーバー紙に、面白い記事が載っていたので、翻訳してみました。

英国ロイヤルバレエのプリンシパル(今はプリンシパル・ゲスト・アーティスト)であり、キューバの英雄的なダンサーであるカルロス・アコスタが、80年代から今に至るまでイギリスのハイテック建築を牽引し、今や世界の巨匠とも言える建築家であるノーマン・フォスターと手を組み、キューバのアートスクール建築を蘇らせようとしていることに関する記事です。

以下は引用した記事の翻訳です。

Can Foster and Acosta rescue Cuba's lost temple to ballet?
フォスターとアコスタはキューバの失われたバレエの殿堂を救うことができるのか?

Half a century after building was halted, Norman Foster has joined forces with Cuba's most famous dancer, Carlos Acosta, in a plan to resurrect a remarkable arts centre
建設が中断されてから半世紀、ノーマン・フォスターはキューバの最も有名なダンサー、カルロス・アコスタと手を組み、素晴らしいアートセンターを蘇らせる計画に取り組む。

Rowan Moore, Photograph: Franklin Reyes/AP
The Observer, Sunday 25 November 2012

それは贈り物にけちをつけるような言語道断の状況のようだ。
偉大なバレエダンサー、カルロス・アコスタは彼が活躍してきた芸術の世界そして彼の故郷キューバの両方に何かお返しをしたいと考え、そして、彼のお金、彼の資本を集める力、彼の名前を、ハバナの辺境に新しいダンス芸術センターを作るために捧げる。
その過程で、彼はキューバで、もしくはそれを抜きにしても、20世紀の最も素晴らしい建物の一つに未来の新たな役割を与えようとしている。
著名な建築家フォスター卿はそのフィージビリティ・スタディにおいて彼を無償で手伝っているが、しかしながらちょっとした騒動になっている。

アコスタは国家財産を「私有化」していると責められている。
問題の建物はバレエ・スクールであり、そもそもはキューバ革命の時代の作品である。キューバの建築家たちは、フォスターのような強大な国際的設計事務所が、その建物の魂をきちんと反映できるかどうかについて疑問に感じているのである。
建物の元々の設計者であるヴィットーリオ・ガラッティは、フィデル・カストロに抗議の手紙を書き送っている。

最近のエピソードであるが、この建物が、本や映画、オペラのインスパイアの元ともなったというとてもドラマチックで華やかな話がある。
バレエスクールはナショナル・スクール・オブ・アートと呼ばれる複合施設の一部である。この建物については、建築家であり教育者でもあるジョン・ルーミスが『Revolution of Forms』という本の中で詳しく語っており、いま映画祭で上映されている映画『Unfinished Spaces』の中では学校が作られる過程の話を見ることができ、さらには、ロバート・ウィルソンによって監督されているオペラの元ともなっている。

ストーリーは1961年にさかのぼる。
フィデル・カストロとチェ・ゲバラがハバナのカントリー・クラブでゴルフをしていた。
ここは革命前には、独裁者フルヘンシオ・バティスタでさえ混血であるという理由で入ることが許されていなかった、とても特殊な場所である。
カストロはその美しい景観が人々に開放され、5つの芸術学校―演劇、プラスチック・アート、音楽、モダンダンスそしてバレエがそこに作られるべきだと考えた。

若いキューバの建築家リカルド・ポーロは、ベネズエラで働いていた二人のイタリア人、ロベルト・ゴタルディとヴィットーリオ・ガラッティと共に、その仕事を任された。
全体デザインコンセプトの下、各部分は違うエレメントをもって設計された。
「その野望が、」ガラッティは言う。「そのダイナミックな設計が革命を反映するようプロジェクトを作り上げた。独断的な考えが押し付けられることはなかった。全くもって自由だった。」

「それは完璧だった。」彼は続ける。「公園の中で働く、我々はすぐに庭園建築を、愛のパヴィリオンを、千一夜を、イングリッシュ・グリーン・ハウスを、アルハンブラの庭園を思い浮かべた。」
ガラッティと彼の仲間はその時代のモダニズム建築家たちの間で流行っていた合理主義に逆らった―彼らはキューバそして音楽、文学、絵画の「文化的コンテクスト」に対応したかった。
「我々は、“合理的な”空間はダンサーたちの動きを制限してしまうことに気付いた;彼らの頭は天井や壁にぶつかってしまうかのようだった。」
だから、その新しい建物は曲面を描いているのだ。

アメリカ合衆国によって輸入が制限されていたため、キューバには鉄鋼もコンクリートもなかった。しかしレンガは地元で作れるため、建築家はレンガでヴォールトやドームを作ることを決めた。
彼らはバルセロナのアントニオ・ガウディの建物で働いていた職人に偶然知り合うことができ、その技術を知った。
彼らはその職人に80以上の労働者を早いスピードで正確に建設できるよう教育させ、建築家たちは昼も夜も敷地で図面を描いた。
「革命を成功させたいならやらねばならない。」ガラッティは言う。

そのプロジェクトは完成させるには完璧なもの過ぎた。
政策の方針はより機能的な建物を求めるように変わり、建築家たちは「エリート主義」やら「文化的な特権階級主義」と責められた。
そのため、他の建物のプロジェクトの方が資源をより緊急に必要としていると見なされた。
バレエスクールは未完成のまま残されたが、ガラッティはあと15日あればその仕事が終わらせられただろうと述べている。
彼は後にイタリアにもどり、スパイ容疑で逮捕され、処刑される恐怖に陥った―キューバ政府は後に彼が無実であることを知った。
植物や湿気が彼の建物を覆ってしまい、部材は略奪されてしまった。
しかしその損傷した状態にもかかわらず、近年、ハバナの芸術ビエンナーレの会場として提供され、スペイン人の振付家ミゲル・ルビオによるショーを行った。

キューバの現在の窮状を考えても、アコスタが寄付しようとしている資金は歓迎されるに違いない。
また、ノーマン・フォスターは“この建物の素晴らしいコレクション”を尊重しようと苦心している。
心底からその提案を喜ばないことにどれほどの理由があるだろうか?
ガラッティにとっては、5つの芸術学校を統合し「異なるアート分野を統合した意図」を維持する重要性という理由が幾分かはあるだろう。
アコスタは(建築家の求めに応じて)ガラッティに個人的に会ったけれども、これは解決されていないし、フォスターに至ってはガラッティに会えてさえもいない。

しかし、それは配役の問題でもある。
フォスターは原則的には国際的なモダニズムの様式をとっている。しかし、当時のアートスクールの建築家たちはそれに反動していたのだ。
フォスターは言う;「我々が設計する全ては、特定の場所における特殊な気候や文化に反応することだ。」
筆者にはフォスターがそのように意図していることは分かる。
しかし、音楽からガウディに影響を受けたヴォールト職人たちまで、ガラッティとその仲間たちがしたようなやり方で、フォスターがキューバの文化に必死に取り組んでいるとは想像し難い。

もしあなたがもともとの精神に基づいて働けるような建築家を思い付きたかったら、その答えはフォスターではないだろう(ましてやザハ・ハディドでもヘルツォーク・ド・ムロンでもリチャード・ロジャースでもそのほかの著名な建築家でもない)。
一つあり得る答えは最初に設計した建築家かもしれない。
または、豊かで特異なモダン建築の様式を持っているラテンアメリカ、キューバと同じ姿勢を共有しているその地域から、建築家を選びうるかもしれない。

フォスターは寛大にも、彼がもし求められれば、「カルロスの夢を実現するために」続けてきたこの仕事から身を引くと言う。
最も重要なことは、その元々の設計に、その志に、その建築家たちに敬意を払うことなのである。

http://www.guardian.co.uk/artanddesign/2012/nov/25/havana-ballet-school-carlos-acosta



記事の引用はここまで。

フォスターがどんな提案をしたのかが不明ですが、決して壊して新しく建て直すような提案ではなく、原設計に敬意を払いつつのリノベーションであっただろうことが推測できます。というのは、こうした歴史的な建物に手を加え、元々の建物を尊重しつつ建物に新たな一面を与える、という点では、フォスターは非常に適任者であると思うからです。(ドイツの国会議事堂(ライヒスターク)や大英博物館のグレートコートなど、これまでにもそうしたプロジェクトで成功をおさめています。)
私は、この騒動は原設計の建築家の横やりだと思うのです。

しかし、その一方で納得できるのは、ラテンアメリカの若手建築家にチャンスを与えてはどうか、という考えです。
既に地位を築いたフォスターは、その豊富な経験と未だ失われない独創性に基づいて、確かにスマートな解を出すでしょう。しかし、地元の若手建築家が苦慮して導き出した泥臭い解の方が、ずっと心を打ち、人々に愛されるという可能性もあります。

このプロジェクト自体は建築から見ても非常に面白く、またキューバのバレエ界にとっても待望されているであろうと思われます。建築は結局はできあがったものでしか判断できないので、どの建築家がいいか、というのは一概に決めつけられないのですが、私は、アコスタがうまく事態を収拾させて、実現にこぎつけられるように願っています。
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by tsutsumi_t | 2012-12-06 08:18 | ダンス


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Tsutsumi

Mechanical engineer / Architect

建築学科を卒業、日本の建築設計事務所で働いた後、2011年に渡英。
バレエやダンス全般の観劇についてここに記しています。

(追記)2013年4月に日本に帰国しました。

(追記)2016年12月に出産しました。観劇はなかなか難しく、ブログの内容が子育てにシフトしてきています。

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